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3D映画の技術入門

 

人は自然界をふたつの目で立体的に認識するが、絵画や写真ではそれを平面データに変換してしまう。そして我々はそのことに何世紀も親しんできた。一方、音のことを考えてみると、音楽はステレオで聴くのが当たり前で、自然界の音も録音もふたつの耳で立体音/stereophonicになって半世紀だ。実は立体視/stereoscopicの歴史は音よりも古いくらいなのに、3D映像はまだ手軽には楽しめる状況にない。

なぜなのか?使い勝手が良くてなお且つ高品質の技術がなかったからだ。


おさらいしてみよう。まず立体として認識するには、左右の目の間隔約60mm分だけ角度の異なる被写体の映像を用意して、その一対を同時に左右の目それぞれが右は右、左は左の絵を見るようにすればよい。

例えば下のリンク写真なども、寄り目にして両方の絵が重なるように見ると立体感が見えてくる。ふたつの写真の真ん中に紙などを衝立にして見ると成功しやすい。

http://namai.com/spg/photo/058h.html


さて最も手軽な方法は昔、雑誌の付録などでも見る赤・青のメガネを使うアナグリフanaglyphという方式。これもネットを捜せば立体写真が楽しめるサンプルがいくつもある。難点は色彩精度が得られないこと。映画の世界ではもはや過去のものだ。

ディズニーなどではこの方式で立体映画を観ることができるDVDを発売している。正直なところ、10分で耐え難くなるというのが僕の感想だ。一説によるとこれはパソコン環境で観るとそこそこ楽しめるとのことだ。



デジタル3D映画の3方式

次に出現したのがアクティブ型と呼ばれるシャッター方式。1922年に実用化されたTeleviewシステムがその元祖で、左右のメガネの視界を高速シャッターで交互に遮り、スクリーンにはそれに同期させて左あるいは右の映像を順次投影する。その後この方式は80年代に液晶シャッターを使うことで、メカニズムをメガネに集約させ普及した。現在はXpanDがこの方式に属す。シャッター速度が遅いと快適さが失われるのと、メガネの重さと電池の消耗が難点。他方、液晶メガネそのものは家庭用3D方式への展開が見込まれる。



現在、米国で最も普及している立体映画方式がReal Dシステムで、偏光フィルター方式と言う。偏光フィルターは1930年代に登場し、立体映画第2次ブームの1950年代はこの方式が牽引した。当時のフィルターは縦横90°で信号分離する線偏光タイプで、頭を傾けるとセパレーションが取れなかった。Real Dでは円偏光メガネを開発してこれに対処、2005年の「チキン・リトル」で日本に初登場した。最大の利点はメガネのコスト、難点はシルバースクリーン(文字通り銀幕)を使用しなければならないこと。光の反射方向性を絞るということは、それだけスクリーン中心部と周辺部での輝度ムラが気になることになる。映画館としては3D映画は銀幕で、2D映画は白幕で、と都合よく切り替えられる話ではないため、何らかの妥協を迫られる。またデータを立体化エンコードする過程で生じるゴーストに対処するため、ゴーストバスターズというデータ処理が加えられており、画質面でシャープネスが影響を受ける可能性があり、このあたりは実際の作品でもう少し確認してみたい。



上述のような旧来の立体視技術と異なり、RGB信号の伝送帯域を左右で相互に少しずらすことで信号を多重化搬送させるという全く新しいアプローチを持ち込んだのがドルビー3Dだ。技術の出所はドイツのインフィテック社。ダイムラーが車体デザインに静止画像の立体化を導入することから実用化が始まった。何と言ってもセパレーションの良さ、色彩クオリティの高さという技術的メリットに加えて、通常のスクリーンを使用するという利便性が売り。ドルビー・デジタルシネマが装備された劇場の場合、3D化の追加負担は非常にリーズナブルと言える。難点は高度なコーティングを伴う分光フィルター・メガネの高コストだ。そのためドルビー3Dのメガネは使い捨てではなく、映画館が回収・洗浄するリサイクル型となっている。エコ意識の低い米国で苦戦しているのもそのあたりに理由がある。

20090301