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ミュージックカセットが輝いていた頃の話

Earl Klugh / Finger Paintings

MFSL C-025 (1977)







Mobile Fidelityは1970年代に高音質アナログLPで一躍脚光を浴びた米国の会社で、彼らはOriginal Master Recordingと称するハーフスピードの低速カッティング技術を売りにしていた。後に同様の手法をカセットにも応用し、一般の音楽カセットがループビン・マスターによる高速ダビングで生産されていたのに対し、オリジナルの第一世代マスターを等速コピーするという生産効率度外視の方式とBASFクロームテープの採用により、高域の性能を大きく改善したOMRカセットを売り出した。詳細は不明だが、カセットシェルについても特注品にこだわったらしい。


Rickie Lee Jones / The Magazine

Warner Bros 25117-4 (1984)







1970年代後半から80年代にかけて家庭用音楽メディアの主流はカーステレオも含めカセットだったので、業界としてもその性能向上には腐心していた。ドルビーHX PROの採用もそうした動きのひとつで、プログラムの周波数分布に応じて録音バイアスを調整することにより、周波数特性の広帯域化を可能にした。この技術は国内外の複数レーベルで採用され、ここに示すワーナーミュージックの例では、透明の特製カセットシェルによって製品の斬新さを強調していたのを憶えている。


Joe Sample / Spellbound

Warner Bros 25781-4 (1989)







ドルビーSノイズリダクションがアナログカセットのための究極の信号処理技術として登場したのは、既にマーケットのベクトルがデジタルに舵を切られていた頃だったので、高性能カセット市場は全体としては収縮方向にあった。それでもSタイプ音楽カセットは世に送り出されるようになったので、その商品グレードを今も確認可能だ。


The Personics System (1990)








日本ではほとんど知られていないが、カセットをメディアに、iTunesビジネスの原型のような過渡期の産物として登場したのがパーソニクス・システムだ。NY、LA、SFの2-300軒ほどのレコード店に試聴システムが置かれ、客はそれを聴きながら好きなトラックを1曲$1程度で選び、カウンターに注文書を持って行く。するとその場でオーダーに応じてデジタルマスター音源から8倍速ダビングで自分だけのカセット・アルバムが作られるというシステムだった。システムのファイルはドルビーAudioCodingによるデジタル符号化が行われていたので、我々もその開発に関わりがあった。そんなわけで僕も実物サンプルを一本作って持っているというわけだ。




20120320