Bits Archive: November 2005

 

November 1, 2005

グレン・グールドのこと

僕が音楽を聴いていて、いつもパワーをもらえた演奏家はグレン・グールドだったし、多分今もそうかな。


 


レコードからは彼の鼻歌も聞こえてくるし、夏でも分厚いコートと手袋を欠かさない振る舞いなどで奇人と見られて、60年代のクラシック評論家の間ではその演奏を高く評価する人はとても少なかった。でもちょっとジャズ奏者でもイメージすればそんな振る舞いは異常じゃないし、とにかく彼のバッハは僕には衝撃的に新鮮で、常に新しい地平から音楽を見せてくれて、奇をてらうなんて次元じゃなかったです。フレージングはもたれることなく速く、美しく歌い、しかも技巧は図抜けたマニエリスト。低声部や内声部を対等にしっかり歌わせて、僕にとってはポリフォニックな歌のお手本みたいで、きっと彼は左利きに違いないと確信していました。


昔、ドルビーホームページの関連記事紹介欄でグレン・グールドのお勧め本について書いた文章(20017月)をここにもう一度載せます。


The Ecstasy and Tragedy of Glenn Gould
By Peter F. Ostwald  W. W. Norton, 1997 (ISBN 0-393-31847-8)

グレン・グールドの伝記や書評はいろいろ読んできたが、この本は極めつけだ。著者のオストワルドは自分自身音楽家であり且つ精神科医であることからグールドと親交を深めた人物で、グールドを取り巻く多くの親しい人たちからの情報収集などにより、極めて詳細なストーリーを構築してくれた。緻密な観察力と奥ゆかしさのある文章は素晴らしく、読みやすい英語だと思う。訳本はアマゾンのサイトで調べたら『天才の悲劇とエクスタシー』という副題で筑摩書房から出ていたが、かなり高額。さて、この本の中にドルビーに言及した個所がいくつか出てきたので紹介しよう。

「コロムビア・マスターワークスの録音をニューヨークで続けるのは面倒が多く、トロントのイートン講堂を使うにあたり、グールドは録音機材をカナダ放送局から借りるより2万ドル以上費やして自分で購入してしまった。アンペックス440録音機を2台、ノイマンU-87マイク3本、ドルビー360ノイズリダクションユニット4台、パワーアンプ2台、KLHスピーカー3台…」 グールドはゴールドベルク変奏曲の再録に至ったいきさつについて、モンセーニョンとのフィルムインタビューに答えて、「ステレオと呼ばれるものを発明した人がいて、それから数年後にはドルビーという、昔の録音はもはや無価値なものにしてしまうような大胆な処理を発明した人が出てきたからね」と語っている。

さらに献辞のページで妻のリーゼに対して、「彼女は1995年11月18日、サンフランシスコのドルビー研究所で開催されたグレン・グールド映画祭とシンポジウムの運営に重要な責任を負った」とある。


ところで、ブルーノ・モンセーニョンとの対話と演奏をまとめたグールドのDVDEMIから「クラシックアーカイブシリーズ」の一枚として発売されています。テクノロジーに対する彼のイマジネーションとどん欲さがよくわかり、音楽録音を仕上げてゆくプロセスも見せてもらえるので、すこぶる楽しいビデオでした。そうそう、このビデオで彼の左利きも確認できます。



November 7, 2005

そうだ、京都に行こう

と、週末は妻の発案に応じて、紅葉狩りを狙ったものの、この時期はちょっと早すぎるようです。大原の寂光院は5年前の放火で全焼した小さな本堂が今年復興したばかりで、その真新しさになぜか虚しさを憶えてしまう。


僕は京都は好きですね。日本の中では珍しくヨーロッパ的とでもいうのか、フィレンツェに行くと街全体が500年前の遺産でしっかり喰っているという印象を受けるけど、京都はそれ以上の伝統を頑なに守る社会があって、街の隅々で職人さんたちがちゃんと食べていけるだけの懐の深い仕組みを維持しているように思えます。今はそこに若い人たちの自由な感覚も融合しているし、計画段階で物議を醸したモダンな京都駅は、僕は最初から賛成派でしたけど、建造物としても魅力的だと思う。


京都御所の一般公開は、僕はまるで興味ないところだけどカミさんが寝殿建築を見ておきたいからというので付いて回った。広い御所も世界レベルと比べれば全体に慎ましい限りだが、さすが皇のお住まいであるからお社もお庭も美しい和の世界。僕にとってのハイライトは紫宸殿の裏側に回ると全面金の襖に朱雀の絵が見事だった。ところが人々はなぜか目も呉れず通り過ぎて次の建物に向かうんだよね。どこ見てんの!と言いたくなったくらいだけど、後で聞くとこれは今回が初お目見えだったとのこと。ラッキー!



夜は二条の「ふじ田」で食事をした。我々はカウンター席ではなくテーブルになったので、板さんの仕事ぶりは観察できなかったが、最後に見送りに挨拶に出ていただいたのはとても若々しい板前さんでした。食事はとてもとても美味しく、珍しく妻も最初から最後まで満足げ。特に蟹真丈からカブラ蒸しの流れは京都らしく、仕上げはお薄と和菓子で締めていただいたのですが、この和菓子について伺うと実はこのお店は二条若狹屋という和菓子屋さんの次男坊のお店とのこと。早速帰る前にそちらにも回って焼き栗をおみやげに調達しました。


帰りの新幹線車
内で本田美奈子さんが急性骨髄性白血病で急逝とのニューステロップを見る。彼女のアルバムを初めて聴いたのは、昔東芝EMIが音楽カセットにドルビーHXプロを採用するというのでいろいろ念のため聞いてみたのが最初で、その後アイドル歌手から脱皮してミュージカルにチャレンジしたり、不治の病から這い上がったり、あの細い身体で前向きに挫けず精一杯生きていたので、臍帯血移植もうまく行ってもう少し頑張ってもらえるかなの願っていたんですが、最期はあっけないくらい突然にやってくるもので、同じ病で僕の親友も幼い娘を残して若かった年で発病後転がり落ちるように逝ってしまった。近い人ならぽっかり心に穴が明いてしまいますね。ご冥福をお祈りします。




















November 11, 2005

米国で公開、「チキン・リトル」と立体映画の行方。

先週金曜日に封切りされた「チキン・リトル」について、少し情報を整理してみました。
但し直接ウラは取ってないので、これは間接的な伝聞ということで。


© Walt Disney Pictures


この映画はデジタル版上映ではドルビーデジタルシネマ方式を採用しています。
もちろんフィルム版上映もあります。
従来、フィルム版映画でもデジタル音声はドルビーデジタルやDTSを使って上映されていますが、デジタルシネマの新しさは,フィルムの代わりにハードディスクのデジタルファイルから映像が再生されるだけでなく、音声方式も非圧縮の5.1chなのです。
我々が次世代光ディスクのコンテンツはHD映像と非圧縮音声という究極の選択で提供されると考えているのもこのためです。

デジタル上映を設備したのは全米84館とのことで、ドルビーとしても全世界では100館を超える規模で最新のシステム、しかも音声だけではなく映像からセキュリティまでを統合管理する全システムに責任を持つ機器を設備するわけですから現場は相当な負荷だったはずです。
全システムと言っても、プロジェクターの部分はドルビーの仕事には入りません。

今回の「チキン・リトル」デジタルシネマ上映の目玉は3D映像でもあるというところにあります。
3D効果はデジタルシネマによって格段に体感効果が良くなるようで、この部分のシステムはルーカスフィルム傘下のILMがノーマルCG画像を基に効果を作り出したそうで、画像の光源方向を偏光レンズに合わせて左用と右用に調整しているそうです。
このILMのシステムはREAL Dと呼ばれて、フレームレートが144fpsと従来のアナログ3Dの約3倍のレートとのことで、やはり効果の安定性などで高い精度を維持できるんじゃないでしょうか。

米国での封切りは当然ながら子供連れの観客でごった返したようで、まずデジタルシネマの映画館に行くと、入り口でチキン・リトルがかけているみたいな眼鏡を渡されて、それだけで子供たちはチキン・リトル気分になるし、何が始まるのかワクワク状態、観客同士がお互いの眼鏡姿に吹き出したり、茶化したりと館内はにぎやかな様子。
映画が始まるとチキン・リトルが画面に登場して、「眼鏡をかけて観てね」と説明があるので、観客全員がチキン・リトルになってしまうわけです。
本編では、立体映像に感嘆やら悲鳴やら、さらには飛んでくるものをつかもうと手を伸ばしたりする子供までいたみたいです。
赤青式の立体眼鏡と違って疲労感がないとのコメントも出ています。

さて、この3D上映は日本でもあるのかどうか、それはディズニーのみぞ知るところですが、是非日本でも
ドルビーデジタルシネマ方式でやって欲しいというのが率直な期待ですよね。
私は来週ロサンゼルスなので、滞在中に絶対観ておきたいと今から手ぐすね引いているところです。
では、続報は現地から・・・?



November 20, 2006

「チキン・リトル」報告

今ロサンゼルスに来ています。29度くらいまで気温が上がって夏のような陽気です。ホテルはユニバーサルシティで、ドルビーのLAオフィスに近いのでここに滞在していますが、ここからはハリウッドは地下鉄で1駅と便利です。
こちらは土曜日の午後ですが、予告通り「チキン・リトル」を3Dで観てきたので、現地レポートを送ります。



向かった劇場はすでにコメントもいただいているEl Capitan。ハリウッドの目抜き通りにある1920年代にオープンしたプレミア劇場で、今はディズニーの映画館です。道路の向かいは例のスターたちの手形とサインを並べたチャイニーズシアターで、いつも観光客でごった返しているところです。今回は奮発して$22の特別席を買いましたが、中に入ってみると1階席の中央列はすべてVIP席で、普通席は左右列のみと強気で商売してます。料金には飲み物とポップコーンのおまけも付いていました。ほとんどが子供連れのファミリーです。



予告編が終わるとすらりとした東洋系のお姉さんが登場して、縫いぐるみのチキン・リトルと名前は忘れちゃいましたがガールフレンドのキャラクターを呼んで、「みんなも一緒に!」と舞台で踊り始めます。それが終わるといよいよ本編の開始、観客はすでに立体眼鏡の準備も出来て、ドルビーデジタルシネマのトレーラーが始まります。これも3D処理されていてなかなかの出来映え、しばらくはため息などがあちこちから聞こえてきます。


さて3D画面の話ですが、映像は安定して違和感はありません。宇宙人の空飛ぶ円盤が街を襲うシーンは3次元的ではあるけどスケール感はちょっと出てないかな。全体的に堅実な効果という印象でした。この映画には左目用画面と右目用画面の2台のプロジェクターを併走運転して、1秒24コマの1コマ毎に3サイクルの左右スイッチを行っていると理解しました。24x6=144ですよね。眼鏡を取ると立体効果の部分が2重写しになるのでぼけたように見えます。高額なプロジェクターが2台も必要といわれると、この興業に踏み切れるのは相当太っ腹なオーナーかなとも思います。実はこのEl Capitanには別にクリスティーのプロジェクターもあって、その場合は1台で3D上映するのだそうです。どうやるのと聞いたら48コマ送りで交互にフレームが切り替わる形式のファイルを取り込んであるとのことなので、これは従来型の3Dですね。バックアップの意味合いかなと思いました。今回の「チキン・リトル」で大々的にREAL Dを採用するに当たっては、IMAX 3Dでの上映もあった「ポーラー・エクスプレス」の一部のシーンを試験的にこの方式で処理して確認が行われたとの話も聞きました。こちらでは「ハリポタ4」のIMAX 3D版も始まって、家庭で体験できないレベルのエンタテインメントにはいつも熱意を感じます。日本でも品川などでIMAXシアターで一般映画上映がありますから、頑張れば可能なのかな・・・


アーティスティックにアニメ映画を考える習性が身に付いてしまった我々から見ると、この映画はストーリーがあまりにアメリカ的なので(かなり単純、もちろん子供向けでテレビアニメに近い感覚、始まってすぐのシーンでこれは「レイダーズ」のパロディーにするつもりなんだと思った途端、ほんとにハリソン・フォードが出てきたりもしました)、これが日本でも大ヒットというところまで行くだろうか?と、やや心配が残ります。でも小学生ならついて行ける話なので、是非家族連れでお出かけください。



今週はハリポタ4の公開(向こうのビルに注目)



November 28, 2005

子供たちのために何を語ろう

アップルのiTunes Storeで「生まれ来る子供たちのために」がずっと売り上げトップを走っていますね。限定購入期限の11月末までこのまま行くのかな。(1週前の土曜の昼頃、突然ランクから一瞬消えちゃって、どうなってるの?と思ったけど。)収益金の一部はap bankの活動資金として寄付されるというし、日本テレビの「火垂るの墓」(ATOKさん変換正解!)のエンディングテーマとして印象深かったので、僕もすぐダウンロードしました。小田オリジナルより桜井カバーバージョンの方が味わい深いというのが僕の素直な感想。


© NTVM


あの終戦60周年ドラマは話が暗いし重いし、見るのは辞めようかと思っていたけど、ついチャンネルを回しているうちに見てしまったという人が結構多かったみたいで、僕もその口でした。日テレのドラマはみんなが認めているように、清太と節子のふたりの子役は最上級に素晴らしかったですね。エンドロールにこの曲が流れたとき、これはこのシチュエーションのために作られた曲だという感じさえしました。

僕は戦後生まれで、戦争の悲惨さなんか具には知らないけれど、今では90を過ぎた親父は「厭なことしかなかった」と経験を子供に語ってくれたことはなかったし、子供心にそれはそれで納得するわけです。元々母親の実家は原爆ドームの川向かいで旅館をしていたので(これは松たか子のTBSドラマと同じ状況)、すべてを失って、僕も結構な貧困家庭で育った記憶を持っていますから、僕らの世代にはまだまだ野坂昭如世代の感情を感じ取るだけの体内メモリーはあるわけです。そう言う生い立ちを引きずって育ったもともと広島市民のせいか僕はハト派です。

タカ派発言がぶれない「物言う作家」と言えば、何と言っても石原慎太郎はもう作家の範疇にはないかも知れないけど、弁舌(毒舌?)スマートに良家のぼんぼんという趣で常に陽の当たるところを歩いてきたのと対照的なのが野坂で、しゃべらせても論旨より感情だったり、ひと頃は左翼シンパ的な発言で学生運動と連動していたらその後がらりと宗旨替えしたり、その日陰者的危うさがまた身近にも感じさせたりします。何だか長嶋対野村みたいな対比になっちゃいましたけど。


ところでiTunesに話を戻しますが、潤沢に流通に乗り始めた第5世代の薄型iPodを先日の米国出張の前にゲット、映画トレーラーとか音楽ビデオを少し取り込んでみました。画像表示は思っていた以上にきれいで見やすいです。^_^)満足。ただ320x240の古いクイックタイム.MOVファイルが再生できなかったりして、ファイル形式をコンバートするのですが、これが★超★が付くくらいのスローライフです。バッテリーの消耗もかなり速い気がするし、まだまだ映像端末としての現実は厳しいかも。このあたりの詳しいレポートをMyCom PCWebに見つけましたので、興味ある方はそちらへ。表示面のポリカーボネイトパネルは傷が付きやすいとの情報なので、早速携帯電話用のディスプレイ保護シートでサイズの合いそうなのを350円で購入、これがパソコン売り場でiPod専用だとまだ第5世代用は出回っていませんし、旧世代用も1400円くらいします。


余談ですが、ロサンゼルスで新聞にソニー・ネタとして新しいWalkman Aシリーズのことが期待を込めて書かれていました。これは僕もなかなかかわいいデザインかなと思いますが、アクセサリー群などを見る限りまだiPodnanoのビジネスモデルを追っているように見えて、個人的にはむしろ期待はやはりPSPに向いちゃいますね。携帯とiPodPSP3台持って歩く気にはなれないけど・・・




















http://pcweb.mycom.co.jp/articles/2005/11/11/ipodvideo/




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